厚生労働省は、関係省庁と連携の上、顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント、カスハラ)の防止対策の一環として、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」や、マニュアルの概要版であるリーフレット、周知・啓発ポスターを作成、公表しています。
マニュアルやリーフレットには、学識経験者等の議論や顧客と接することが多い企業へのヒアリングを踏まえ、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備、実際に起こった際の対応など、カスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みを記載しています。
いずれも厚生労働省ホームページからダウンロードできますので、企業のご担当者をはじめ、幅広く活用してみてはいかがでしょうか。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
令和元年6月に、労働施策総合推進法等が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となりました。
この改正を踏まえ、令和2年1月に、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定され、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に関して、事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい旨、また、被害を防止するための取組を行うことが有効である旨が定められたものです。
マニュアル作成の背景
厚生労働省が実施した「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、企業に対する調査では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業の割合は19.5%、また同調査の労働者に対する調査では、過去3年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験したと回答した割合は15.0%となり、こうした行為に悩む企業、労働者は少ないとは言えません。
本来、顧客等からのクレーム・苦情(以下、併せて「クレーム」)は、商品・サービスや接客態度・システム等に対して不平・不満を訴えるもので、それ自体が問題とは言えず、業務改善や新たな商品・サービスにつながるものでもあります。
他方、クレームの中には、過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつけるものもあります。
不当・悪質なクレームは、従業員に過度に精神的ストレスを感じさせるとともに、通常の業務に支障が出るケースも見られるなど、企業や組織に金銭、時間、精神的な苦痛等、多大な損失を招くことが想定されます。したがって、企業は不当・悪質なクレーム(いわゆるカスタマーハラスメント)に対して従業員を守る対応が求められます。
こうした背景を踏まえ、企業等にカスタマーハラスメント対策の必要性を理解いただき、自主的な取り組みを行って頂くことを目的に、本マニュアルが作成されたものです。下記に一部を抜粋してご紹介します。
企業が具体的に取り組むべきカスタマーハラスメント対策
企業がカスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みを構築するため、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備、実際に起こった際の対応として、以下の取組が推奨されています。
カスタマーハラスメントを想定した事前の準備
①事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
・組織のトップが、カスタマーハラスメント対策への取組の基本方針・基本姿勢を明確に示す。
・カスタマーハラスメントから、組織として従業員を守るという基本方針・基本姿勢、従業員の対応の在り方を従業員に周知・啓発し、教育する。
②従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
・カスタマーハラスメントを受けた従業員が相談できるよう相談対応者を決めておく、または相談窓口を設置し、従業員に広く周知する。
・相談対応者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。
③対応方法、手順の策定
・カスタマーハラスメント行為への対応体制、方法等をあらかじめ決めておく。
④社内対応ルールの従業員等への教育・研修
・顧客等からの迷惑行為、悪質なクレームへの社内における具体的な対応について、従業員を教育する。
カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応
⑤事実関係の正確な確認と事案への対応
・カスタマーハラスメントに該当するか否かを判断するため、顧客、従業員等からの情報を基に、その行為が事実であるかを確かな証拠・証言に基づいて確認する。
・確認した事実に基づき、商品に瑕疵がある、またはサービスに過失がある場合は謝罪し、商品の交換・返金に応じる。瑕疵や過失がない場合は要求等に応じない。
⑥従業員への配慮の措置
・被害を受けた従業員に対する配慮の措置を適正に行う(繰り返される不相当な行為には一人で対応させず、複数名で、あるいは組織的に対応する。メンタルヘルス不調への対応等)。
⑦再発防止のための取組
・同様の問題が発生することを防ぐ(再発防止の措置)ため、定期的な取組の見直しや改善を行い、継続的に取組を行う。
⑧①~⑦までの措置と併せて講ずべき措置
・相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する。
・相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、従業員へ周知する。
本マニュアルを通して、多くの事業主や関係者にカスタマーハラスメントの正しい理解が促され、接客等の現場におけるカスタマーハラスメントの防止と適切な対応につながり、働きやすい職場づくりに生かされることが期待されています。
厚生労働省
ワダ社会保険労務士事務所